有毒プランクトンの生態 (解説)



有毒プランクトンを正確に説明すると「人間やほ乳類に対して中毒など有害な作用を示す毒素
を産生する浮遊生物」となる。以下にその生態について解説します。


<種類数>
 有毒プランクトンは現在までのところ日本では20種類ほどが知られているが、これはプラン
クトン全体の種類数のわずか1%にしか過ぎない。また有毒プランクトンのほとんどが普段は
検出できない程度に低密度で存在することが多く、プランクトンの中でも少数派に位置づけら
れる。
 有毒プランクトンのほとんどが「渦鞭毛藻」と呼ばれる分類群に含まれている。従って、ある
種の珪藻など一部の例外を除けば、有毒プランクトン=渦鞭毛藻と考えても差し支えない。

<分布>
 高緯度地方の結氷下で発生するものから東南アジアの河口域まで、有毒プランクトンは世界
中の海域に分布している。ただしそれぞれの種によって生息水温に特徴があるため、高緯度
地方と熱帯で同一種が発生するということはほとんどない。
 有毒プランクトンは増殖速度が他のプランクトンと比較すると遅いため、基本的に海水交換
の低い内湾や沿岸を中心に分布する。ただし下痢性貝毒原因種などは海流に乗って広範囲
に分布することも多い。

<大きさ>
 有毒プランクトンのほとんどを占める渦鞭毛藻は、夜光虫など突出して巨大なものを除け
ば、そのほとんどが0.01〜0.1mmの範囲にある。また有毒渦鞭毛藻に限ればその大きさは0.02
〜0.08mmの範囲に収まる。いずれにしても大変微細な生物であり、肉眼で観察することは不
可能である。




<形>
 有毒プランクトンのほとんどを占める渦鞭毛藻は、単細胞生物であるにも拘わらずその形態
は多種多様であることが知られている。麻痺性貝毒原因種であるAlexandrium属は球形でシン
プルな形態であるものの、その細胞表面には鎧板と言われるセルロース質の殻を持ってい
て、その模様はかなり複雑で分類学上の特徴的な形質となる。
 同じ麻痺性貝毒原因種であるギムノディニウム カテナータムは16〜32細胞が縦に連結
し、これらが一斉に同じ方向に、しかも左右にうねりながら運動するため、さながらウミヘビの
ように泳いでいく。
 さらに下痢性貝毒の原因となるディノフィシス属の場合、空豆のように平べったい楕円体に魚
の背びれのような翼片と漏斗が付随している。
 このように有毒プランクトンの形は極めて個性に富んでいる。

<生活環>
 有毒プランクトンは常に同じ形態をしている訳でなく、栄養細胞、遊泳接合子、休眠性接合子
(シスト)などに分けられ、それぞれに形態が異なる。

<雄と雌>
 有毒プランクトンは雌雄異体で、接合によって遺伝子の交配を行うものが多い。雄も雌も外
見は全く同じである。

<栄養>
 有毒プランクトンのほとんどは光合成で無性的な2分裂を繰り返して増殖する。すなわち植物
プランクトンとか微細藻類と呼ばれる仲間に含まれる。細胞の表面から窒素、リン、鉄やマン
ガンなどの栄養分を吸収している。希に他の光合成生物を捕食・消化したり、繊毛虫などが捕
食により獲得した葉緑体を略奪して増殖する種も存在する。

<毒素>
 二次代謝産物としてアルカロイドやポリエーテル化合物を産生する種が知られている。低分
子で比較的耐熱性があるために、二枚貝に蓄積した後も調理等でなかなか分解せず、経口摂
取した場合に体内に吸収されやすい。毒素の産生目的として、捕食を逃れるための防御物質
として機能しているとの報告もあるが、あまり明確ではない。



戻る
戻る