平成28年度 瀬戸内海区水産研究所 研究成果発表会 
水産研究の今
~海の生き物についてわかってきたこと~
 開催日時 平成28年10月1日(土)13:00~16:00 
 開催場所 広島マツダビル 第3、4会議室
 要旨はこちらから

 会場風景と主な質疑
  開会挨拶 
      
 
  1.アオサはなぜ増え、なぜ減った?
 ~藻場・干潟に現れた広島湾の環境変化と今後~

生産環境部 藻場生産グループ長 吉田 吾郎

1990年代、宮島をはじめとする広島湾の干潟がアオサで埋め尽くされたことがありました。アオサは当時なぜ増え、今なぜ減ったのか、そこから変わりつつある広島湾の現状と地球規模の環境変化の影響を考察しました。 
 
  Q.磯焼けは海生生物による食害と聞いたがアオサは食べられないのか?
A.食べる魚はいるとは思うが、影響は多大ではない様だ。冬の水温が下がっているためと考えている。
Q.ノリ養殖の初期、水温の高い時期に魚による食害が増えて問題となっている。漁師の間では、昔はアオサ類がたくさんあったため、ノリが食べられなかったのだろう、アオサ類が減って食べるものがなくなって養殖ノリを食べているのではないか、との話があるが、関連はあるのか。
A.貴重な情報ありがとうございます。そういうことはおそらくあるかと思う。各地でもノリやワカメが食害を受けている。アサリとかでも同じような構図で、トータルの生産性が落ちると食物連鎖の上からの圧力が特定の種に集中することが起きているのではないかと考えている。情報を参考に研究を進めたい。
Q.ミナミアオサが90年代の増加の主な原因か、アナアオサとの割合は。
A.季節により変わる。
冬から春に干潟に上がっているのはほぼアナアオサ。夏から秋にかけて溜まっているものはほぼ鋸歯のあるアオサ(ミナミアオサの可能性ある種)。非常にきれいに季節で別れるので、双方ともに大量発生の原因と考えている。
 
   
  2.瀬戸内海の水産資源、増えたさかな、減ったさかな

資源生産部 主幹研究員 阪地 英男

近年、瀬戸内海における総漁獲量は減少していますが、同時に漁業を営む漁師さんも減少しています。瀬戸内海のさかなは本当に減っているのでしょうか。ここでは、主要水産生物の資源量解析の最新の結果を報告します。
 
 

Q.漁業者と現場で話すと中層魚はあまり減ってないが、底ものが減っているとの話をきく。資源の減少より、漁業者の減少が漁獲減に影響しているとの話は驚きで、漁業者の話との差を感じた。
A.あくまでも瀬戸内海全体の話であり、海域・灘によって差はあるので、地域、地域での感じ方に違いが出てくるのではないか。底ものと中層魚については、ここではデータのある魚種について話した。データがないので資源評価は難しいが、クルマエビ、マコガレイ、小型エビなどは大きく減っている言われており、そのように感じる。しかし、公的なデータが少なく、漁獲量データすらないものもあるため、このような解析を行うまでに至らないのが現状。
Q.広島ではマダイ、ヒラメ、マコガレイの放流を行っているが、漁獲動向との関係はどうなっているのか?
A.今日の話の中では、サワラ、マダイ、ヒラメは放流を行っている。ヒラメについては、資源解析の結果、放流効果が認められている。マダイに関してはあまり効果が認められない。サワラについてもあまり効果は認められていない。
Q.サワラについては、各所で放流が行われた結果資源が増えたとの報道を目にしたが。
A.近年は、放流効果がないとされている。また、放流が行われていない日本海で非常に増えているのは気候変動の影響で分布が大きく広がったことによると思われる。 

   
  3.エビとアサリを一緒に育てる
 ~クルマエビ養殖場を活用したアサリの複合養殖~

海産無脊椎動物研究センター 貝類グループ 主任研究員 山崎 英樹

クルマエビ養殖池では、しばしばアサリが自然に大量発生することがあります。クルマエビとアサリを仲良く一緒に養殖する話をします。 
 
 

Q.大野町でアサリ養殖を行っているものだが、うらやましい話で、干潟でできるような何かいい工夫はないか。
A.干潟のかぶせ網の研究は行っている。
Q.餌が一番気になる、何か手はないか。
A.今後の課題として受け止める。
Q.クルマエビ養殖場でアサリが利用している餌は他の干潟の餌と同じか、違うのか。
A.どのような起源の餌を食べているかは増養殖研の研究によると天然と餌の比率は異なっているらしいとの結果、プランクトン以外の餌も食べていると思われる。
Q.餌が違うとアサリの蛋白組成等異なるのか。
A.まだ調べていないが、おそらく異なるものと思われる。ただ、ブランド化することで違いをプラスとすることができるのはないか。
Q.ブラウンウォーターを湧かすときに何か添加するのか。
A.通常と同様のエビ餌とフンを基に行っている。発生の状況は池によって異なっている。
Q.クルマエビがアサリを食害することに対して囲い網等の設置は如何か。
A.    あくまでクルマエビが主となるので、エビの取り上げの障害となる構造物の設置等は難しい、そのためサイズ調節での対応を考えた。
Q.アサリ養殖でのホタテ貝・牡蠣貝殻の利用はどうか。
A.網袋に基材としてそれらを利用して入れ、そのまま袋養殖する方法が広がりつつある。

   
  4.タウリン食べれば魚も元気!!
 ~肝機能向上で有害物質の毒性を軽減~

環境保全研究センター 化学物質グループ 主任研究員 羽野 健志

 
タウリンは肝臓の働きを助ける重要な栄養素です。これを魚に与えることで、有害物質の毒性が軽減された研究成果について紹介します。
 
 

Q.天然の魚はどこからタウリンをとっているのか、また人間は。
A.天然魚は、餌となるアサリ・甲殻類・二枚貝から摂取。これらは、タウリンが豊富である。白身より赤身魚、特に血合いに多い。ノリにも多く含まれる。人間は、これらから摂取している。
Q.猫では必須であるが、タウリンは魚で循環器系に影響あるか。
A.これからの宿題、タウリン制限食の魚は元気がなくなる。
Q.イカゴロを餌として利用する場合、カドミウム含量が多いことが問題。タウリン含量が多いことと関係あるのか。
A.関係はありそう、肝臓中にメタロチオネインとして蓄積か。
【補足】養殖餌にはもともと魚粉が使用されていたが、価格高騰のため大豆タンパクで代替した場合、サポニンの影響で成長・生理状態に悪影響が見られたため、タウリンでの影響軽減が図られ何割かの代替が可能になった経緯がある。餌自作の実験は大変である。

   
  総合討論 
    Q.カタクチイワシは福山では低位・減少と感じる。また系群の扱いはどのように考えているか。
A.瀬戸内海全体の話として発表したので、地域毎の実態との乖離はご理解いただきたい。系群については漁獲の傾向が異なる状態が続けば分けることも考えられるが、現在のところは単一系群として扱っている。
Q.カタクチは同一海域で成長しているので、別系群となるのではないか。燧灘は特に不漁と感じる。
A.
卵は浮遊して移動していると考えられる。また、海域の産卵期前に卵が確認できるので外海から流入しているものもあると思われる。燧灘は交流が少ないと言われているが、卵の流入等はある模様。不漁の原因については現在、研究中である。
Q.地球温暖化の影響で南の魚が北上していると感じるがどうか。
また、瀬戸内海特措法改正についての瀬戸内水研の取り組みについて伺いたい。

A.磯焼けを起こす魚としてはアイゴが挙げられるが、瀬戸内海では冬季水温が下がるので、まだ外海ほど大きな問題とはなっていない。100年後の瀬戸内海水温上昇のモデル化予測を愛媛大学と研究中。個人的な感想としては、昭和20年代はアイゴが多く、高級魚として扱われていたとの話を漁師さんから聞いている、地球温暖化とは別に周期的な変動があるのかもしれず、アイゴを食用としていたような昔の魚食文化を取り戻すことも重要なのではないかと考えている。
特措法に関しては、今年度から研究課題を立ち上げて取り組んでいるところである。

Q.1990年代の温度上昇について、他にも影響はあったのか。また、地域的な現象だったのか。
A.カキ養殖、赤潮についても変化があった。モデルでは1994年に上昇との結果も出ている。
A.北上した魚が再生産を行う状況にはまだなっていないと考えている。マコガレイ、イカナゴ等瀬戸内海が分布南限の魚種については温度上昇との関係を研究中。貧栄養化については事実起こっていると認識している。魚までの影響・メカニズムを調べることはなかなか難しいが、カタクチをメインに貧栄養化の影響を調べる研究を進めている。
Q.藻場、海藻の優占種が変化した事例はあるのか。尾道で以前は見かけなかったアオノリを長く伸ばしたような海藻を見かけた。
A.個体差として突発的に大きくなったものが見つかることはある。また、九州では磯焼けの後南方系の海藻で藻場形成された例があり、現在では新しく形成された藻場の海藻の利用を考える方向になっている。
Q.10年以上干潟アサリ生産の安定化の方策について考えている。種苗は何とかなるようになってきたが、成貝にする畑の方の問題がある。研究者の立場から改善の提案があればありがたい。
A.アサリの生産維持には養殖は重要、大野のアサリ養殖は全国でも貴重なものと思う。改善には底質の診断技術が必要になるのではないか。
A.直接アサリ養殖とは関係ないが、ゴカイが働きやすい環境の研究は行っている。
A.
貧栄養化によって生産が低下しているとの意見もあり、施肥によって生産性の向上を図る考えもある、現時点では検証が進んでおらず、決着がつけられない。
       
お問い合わせ先   瀬戸内海区水産研究所 業務推進課   TEL.0829-55-0666(代)