造礁サンゴの分布と群集構造


[要約]
 我が国沿岸における造礁サンゴの分布特性を明らかにした。また、環境条件が造礁サンゴの種類や群体数、被度に影響し、さらには群集構造の成立と維持にも関与することを、スキューバ潜水を用いた野外調査により実証した。
南西海区水産研究所・外海調査研究部
[連絡先]  0888-32-5146
[推進会議] 南西ブロック水産業関係試験研究推進会議
[専門]     
[対象]     
[分類]     

[背景・ねらい]
 近年世界各地のさんご礁海域において、造礁サンゴ群集の大規模な破壊が認められ、環境保全の点において、あるいは生物資源の減耗といった点において憂慮すべき状況が生じている。この原因として、沿岸開発や海洋汚染といった人為的攪乱のほか、異常高温や生物食害といった要因があげられている。
 本研究の目的は、我が国沿岸における造礁サンゴの分布特性と群集構造を明らかにすることである。この過程において、沿岸汚染や地球温暖化など、造礁サンゴと環境要因との因果関係について考察する。

[成果の内容・特徴]
 造礁サンゴに関する過去の知見を総括することにより、南西日本による造礁サンゴの分布特性を調べた。その結果、北緯30゜付近より南方のさんご礁域と、それ以北の造礁サンゴ分布域との間には、科や属レベルでは明瞭な差異はが認められないものの、種レベルにおいて明瞭な境界が存在するということが明らかになった。高緯度地方の造礁サンゴ生物相の独自性を示す象徴的な結果であると評価できる。
 造礁サンゴの群集構造を調査した結果、生息環境条件と関連して、造礁サンゴの出現種、優占種、種類、種数、群体数、被度、分布様式などに大きな差異が認められた。1980年前後に起こったオニヒトデによる食害以降、環境条件の恵まれた海域では造礁サンゴ群集が順調に回復しているのに対して、沿岸付近では水質悪化や異常高温の影響を受け造礁サンゴ群集の回復が困難な状況にあることが示唆された。

[成果の活用面・留意点]
 一連の研究を通じて、我が国沿岸域の造礁サンゴ群集が危機的状況にあるという認識を新たにした。これらの結果を、さんご礁生態系や造礁サンゴ生態系の環境保全や多様性維持に活用すると共に、関連する資源生物の持続的利用に反映していく施策の展開が必要であると考えられる。

[具体的データ]
 我が国沿岸に分布する造礁サンゴは約400種を数えた。造礁サンゴの分布中心に近い八重山列島では15科69属363種にのぼり、黒潮奔流に沿って緯度が高くなるにつれ種数は減少した。造礁サンゴの分布域としては世界最北端に位置する館山では、9科20属24種を数えた。この間、トカラ列島より南方ではさんご礁が発達するが、それ以北ではさんご礁は存在しないものの造礁サンゴは普通に認められる。類似度マトリックスによる比較では、トカラ列島に断層が見られ、その南北で造礁サンゴの種構成が変化した。
 造礁サンゴの群集構造に関する研究は、高知県夜須町及び石垣島浦底湾をモデル海域として、スキューバ潜水器を用いた野外調査を主体に行った。造礁サンゴの被度は沖合で85.5%の表面積を占めていたのに対して、沿岸寄りではわずか4.5%にとどまるなどの差異が認められた。種数や群体数も、沿岸より沖合に向かうにつれ増加傾向を示した。さらに優先種が異なり、沿岸寄りでは、ハマサンゴ類が,沖合域ではミドリイシ類が優占した。水温、塩分、濁度、透明度、クロロフィル量などの水平/鉛直分布について測定し、群集構造と比較することにより、造礁サンゴと環境条件との因果関係を明らかにした。

[その他]
 地球環境や生物多様性に関する関心の高まりから、水産庁においてもサンゴ研究を精力的に推進している。特に我が国は先進国中、自国内にさんご礁を有する数少ない国のひとつであり、かつさんご礁から非さんご礁域に至る緯度に伴う変化を自国内においてとらえる事が可能な北半球唯一の国でもある(南半球ではオーストラリア。こうした地理的特性を活かしたサンゴ研究を着実に発展させていくことは、研究機関として重要な使命であると考えられる。