マガキ幼生の凍結保存


[要約]
 マガキの貝殻腺形成直前ののトロコフォア幼生をヂメチルスルフォキサイドおよびトレハロースを含む4倍希釈海水に浸漬し−1.0℃/分の冷却速度で−35℃まで冷却したのち液体窒素中に保存することにより、約8ヶ月後でも解凍後に発生が進行し殻形成や遊泳・摂餌をする幼生を得ることができた。
南西水産研究所 資源増殖部 介類増殖研究室
[連絡先]  0829-55-0666
[推進会議] 南西ブロック水産業関係試験研究推進会議
[専門]     水産育種
[対象]     かき
[分類]     研究

[背景・ねらい]
 マガキは産業上きわめて重要であり、二枚貝のなかでは生理的な知見も比較的豊富な種である。液体窒素(−196℃)中に凍結保存したマガキ幼生を必要に応じて解凍し発生を再進行させることができれば、育種を目的とした系統保存や種々のバイオアッセイ系としての利用等が可能となる。

[成果の内容・特徴]

  1. 凍結・解凍が幼生に与える障害を軽減するために数種の薬品やタンパク類とそれらの組み合わせを検討した結果、ヂメチルスルホキドとトレハロースの両方を各々1.0モル、250ミリモルの濃度で用いるのが適していた。
  2. 冷却条件について検討した結果、冷却速度は−1.0℃/分、冷却終了温度は−35℃(図1)が適していた。
  3. 凍結時の海水は4倍希釈するのが適していた(図2)。非希釈海水を用いた場合、解凍直後に運動している幼生の比率(運動率)は希釈海水を用いた場合と大差無いが、殻の形成は著しく阻害された。
  4. 凍結保存に用いる幼生としては、貝殻腺形成直前の発生段階にあるトロコフォア幼生が適していた(図3)。
  5. 解凍は常温水中で行うのが適していた。
  6. 以上の条件で凍結し、液体窒素中で保存後解凍した幼生は、解凍後も約60%が運動性を有し、それらの一部は発生が進行して殻形成や遊泳・摂餌を行うのが観察された。

[成果の活用面・留意点]

  1. 現時点では、解凍後も発生が進行する幼生は用いた幼生の数千〜数万分の1であり、系統の保存方法としての利用は可能と思われるが、バイオアッセイ等で多くの幼生が必要となる場合はそれに応じた量の幼生を凍結しなければならない。
  2. 解凍後の発生進行は用いる幼生の質に大きく左右されるので、産卵盛期に受精させたもので、冷却処理前の発生が順調に進んでいる幼生を用いる必要がある。

[その他]
研究課題名:育種研究のための海産生物のバイオアッセイ系の検討
予算区分 :バイテク(地域バイテク)
研究期間 :平成8年度(平成元年度〜7年度)
研究担当者:薄 浩則、浜口昌巳、石岡宏子
発表論文 :マガキ幼生初期の耐凍性の変化、平成6年度日本水産学会春季大会講演
      要旨集、p.95、1994
      マガキトロコフォア幼生の凍結保存、第5回マリンバイオテクノロジー
      研究会講演要旨集、p.91、1996