ホンダワラ類の形態形成に及ぼす環境要因の影響
- [要約]
- 1年生のアカモクの分布、消耗と成長に浮泥の沈積が大きく影響すること及び多年生のノコギリモクの葉状部と付着器の発達に適する光と温度の条件が異なることを明らかにした。
南西海区水産研究所 資源増殖部 藻類増殖研究室
[連絡先] 0829-55-0666
[推進会議]南西ブロック
[専門] 藻類生態
[対象] ホンダワラ類
[分類] 研究
[背景・ねらい]
近年、沿岸域において様々な原因により藻場の消失、衰退が進行し、漁業生産への影響が懸念されている。本研究ではガラモ場の形成と安定な維持に資する知見を集積するため、ホンダワラ類の形態形成・成長と環境要因の関係を解明する。
[成果の内容・特徴]
- 広島湾奥部の大野瀬戸沿岸では、浮泥が多く、その着底基盤や藻体上への沈積が1年生ホンダワラ類アカモクの分布(図1)、消耗と成長(図2)に大きく影響していることが明らかになった。このような場所でアカモク藻場を存続させるためには、成長期に波浪など何らかの物理的撹乱により、付着基盤が刷新され、幼胚が着生できる場を形成させる必要があることが示唆された。
- 同一海域内でも、浮泥の積もりやすいところに分布している多年生のノコギリモクでは、葉状部と付着器の成長に最適な条件が異なることが明らかとなった。光量12.5〜400μEm-1s-1の範囲において、葉状部の成長は50μEm-1s-1で飽和したが、付着器の成長は200μEm-1s-1で飽和した(図3)。また、葉状部の成長は25〜30℃等の高温条件が望ましいが、付着器の成長には15〜20℃が適していた(図4)。このことから、条件によってノコギリモク幼体の藻体内の同化産物の分配の様式が異なること、また、成長段階や生育環境に応じて光の補足、基盤への固着力などの成長特性が示唆された。
[成果の活用面・留意点]
- ホンダワラ類の葉状部と付着器の発達に適する条件が異なるという本知見に基づき、波浪、光、水温などの培養条件を制御することにより、育苗技術の高度化等が期待でき、海藻養殖や藻場造成の技術に応用できる。
- ホンダワラ類の生残・成長に大きく関与する生育環境と形態など現れる成長特性との関係をさらに多くの種類で明らかにしていくことにより、藻場の維持・管理に有益な情報となる。
- 葉状部と付着器の発達に適する条件が異なる、というのは初めての知見である。
[具体的データ]
図1 大野瀬戸沿岸(人工護岸)域のアカモクの分布
図2 母藻の分布しないSt.1と分布するSt.2に移植したアカモク幼胚の成長
図3 ノコギリモク幼体の部位別の成長と光量の関係
図4 ノコギリモク幼体の部位別の成長と水温の関係
[その他]
研究課題名:ホンダワラ類の形態形成に及ぼす環境要因の影響
予算区分 :経常
研究期間 :平成6年度〜8年度
研究担当者:吉田吾郎
発表論文等:
- 吉田吾郎他(1995)褐藻アカモクの初期生長に及ぼす日長、照度、水温の影響.南西水研報、(28)、21-32
- 吉田吾郎他(1997)広島湾大野瀬戸における秋に成熟するアカモクの初期成長と減耗.南西水研報、(30)、(投稿中)
- 吉田吾郎他(1997)広島湾大野瀬戸産ノコギリモク幼体の成長に及ぼす光量・水温の影響、南西水研報、(30)(投稿中)