ヘテロカプササーキュラリスカーマ赤潮の発生環境とアコヤ貝の斃死


[要約]
 ヘテロカプサ サーキュラリスカーマは貝類を直接殺す有害赤潮プランクトンである。本種の赤潮発生にはこれに先立つ海水の鉛直混合が重要であると考えられた。また英虞湾において本種の増殖とアコヤガイ斃死率の関係を把握した。

南西海区水産研究所 赤潮環境部 海況動態研究室

[連絡先] 0829−55−0666
[推進会議]南西ブロック [専門]  漁場環境
[対象]  プランクトン
[分類]  研究


[背景・ねらい]
 西日本各地の内湾でヘテロカプサ サーキュラリスカーマの赤潮が頻発し、貝類に大きな被害を及ぼしている。本種による赤潮の発生機構及び貝類斃死との関係を解明することが急務である。
[成果の内容・特徴]
  • ヘテロカプサ サーキュラリスカーマ(以下ヘテロカプサと略)は三重県英虞湾において1992年8月及び1994年7月〜8月に大規模な赤潮を形成した。
  • いずれの年にも赤潮発生前には水温成層が一時崩壊していることが認められた。これは台風の通過に伴う海水の鉛直混合に起因すると考えられた(図1)。また、高知県内ノ浦湾においても本種の発生前に海水の鉛直分布が認められた。
  • 海水の鉛直分布は底層に蓄積された栄養塩や増殖のタネとなるシスト等底生期細胞を表中層に移送し、本種の発芽・増殖を促進することが考えられる。
  • ヘテロカプサは越冬性休眠細胞は確認されていないが、一時的な底生期細胞を形成することが確認されている。この底生期細胞が鉛直混合等によって表中層に巻き上げられ、その後の増殖のタネ細胞になった可能性がある。
  • 英虞湾においてヘテロカプサの細胞密度とアコヤガイの斃死率との関係を調べたところ、ヘテロカプサの細胞密度の増加に伴ってアコヤガイの斃死率が上昇することが認められた。斃死率は1994年には最大90%に達した(図2)。ヘテロカプサの貝類に対する致死作用は培養藻体を用いた室内実験でも確認されている。

[成果の活用面・留意点]
  • 海水の鉛直混合が本種の赤潮発生の前兆になると考えられ、鉛直混合を促進する強風等気象条件がヘテロカプサ赤潮の予知指標になる可能性が示唆された。
  • ヘテロカプサが貝類に及ぼす影響を詳細に解明することにより、赤潮注意報や警報を出す場合の基準細胞密度設定に資する。
  • 本種の生理生態的特性、栄養物質動態、他種生物との相互作用を明らかにすることにより、本種の赤潮発生機構の解明及び予測技術の開発をさらに推進する必要がある。

[具体的データ]

図1.Heterocapsa circularisquamaの英虞湾における発生状況(↓は台風襲来を示す)

図2.Heterocapsa circularisquama細胞密度とアコヤガイの斃死率(いずれも水深5m層)

[その他]
研究課題名:渦鞭毛藻・ラフィド藻等新型赤潮の発生機構と予測技術の開発に関する研究
予算区分 :国立機関公害防止試験研究費
研究期間 :平成6〜9年度
研究担当者:松山幸彦、内田卓志
発表論文等:

  • 松山幸彦・永井清仁・水口忠久・藤原正嗣・石村美佐・山口峰生・内田卓志・本城凡夫、1992年に英虞湾において発生した Heterocapsa sp.赤潮発生期の環境特性とアコヤガイ斃死について。日本水産学会誌、61巻1号、35-41、1995
  • Matsuyama, Y., T. Uchida, K. Nagai, M.Ishimura, A. Nishimura, M. Yamaguchi and T. Honjo, Biological and environmental aspects of noxious dinoflagellate red tide by Heterocapsa ciricularisquama in the west Japan. In: Yasumoto, T., Oshima, Y. and Fukuyo, Y. (eds.), Harmful and Toxic Algal Blooms, Intergovernment Oceanographic Commission of UNESCO, 247-250,1996.