潮岬沖を通過する黒潮小蛇行と沿岸海況 − 1998年 5月〜 6月の事例 −
- [要約]
- 紀伊水道沖で急速に発達した黒潮小蛇行が、1998年 5月末から 6月はじめにかけて潮岬沖を通過した。その通過日は 5月28〜29日と推定された。現場観測から小蛇行の通過前後わずか数日間で沿岸海況が大きく変化したことを確認した。蛇行の発達過程を衛星画像から追跡し、小蛇行の移動速度は約3.5kt/日と計算された。
和歌山県農林水産総合技術センタ−水産試験場 資源部
[連絡先] 0735-62-0940
[推進会議]瀬戸内海ブロック
[専門] 海洋構造
[対象]
[分類] 調査
- [背景・ねらい]
- 九州東岸から房総半島までの黒潮内側域の海況は、小蛇行の通過に伴って大きく変動することが経験的に知られている。しかし、そのような海況変動の実態を現場観測から示した事例はほとんどない。小蛇行の通過前後に、沿岸海況がきわめて大きく変化したことを定線調査で観測することができた。その通過日については、従来から、いくつかの指標を利用した観察を積み重ねて、ほぼ日単位で推定できると考えていた。この事例によって、これまでの観察方法の妥当性が検証された。蛇行通過日が、潮岬のほかに室戸岬など複数の地点で推定できれば、その後の蛇行の発達を予測できるかもしれない。
- [成果の内容・特徴]
- 1. 九州東岸から東進した小蛇行が、1998年 5月末ころ紀伊水道で急速に発達して潮岬を通過した。衛星画像から蛇行東端部の東進速度は 約3.5kt/日と計算された。
- 2. 蛇行は熊野灘〜遠州灘で停滞することなく、同じ速度で伊豆諸島まで東進し、7月下旬にC型流路となった。
- 3. 衛星画像、串本・浦神の水位差、潮岬東・西の水深 5m水温、潮岬灯台からの目視による流れの観察、漁業者からの聞き取り調査などから、蛇行の通過日は 5月28日〜29日 と判断された(図1)。なかでも,水位差モニタリングの重要性が再認識された。
- 4. 小蛇行の通過前後に実施した2回(5/26-27と6/1,4,5)の観測から、わずか数日で沿岸海況が大きく変動したことを確認できた。海況変動の特徴は次のとおりである。
- (1) 通過直前には黒潮の強い東向流が潮岬に接し、東側で海底斜面から離脱して東方沖へ流れていた(図 2a)。
- (2) 通過直後は、流れがほぼ全域で全く逆向きの西向流に急変した(図 2b)。
- (3) 通過前後の水温は、全域・全層で大きく変化した(図 3a,b)。潮岬を境として水温は、西側で約 1〜 3℃低下し、東側で約 1〜 3℃上昇した。通過前は、潮岬東西の沿岸水が完全に分離されて熊野灘南部に冷水部(流れの陰領域)が形成されていた。通過後には、東西で同じ性質の黒潮系暖水が分布し、沿岸水の分離はみられなかった。
- [成果の活用面・留意点]
- 潮岬を通過する小蛇行の通過日を日単位で推定できる可能性が示された。今後、事例を増やすことで、より確実な技術手法としたい。
[具体的データ]
![](./feis1111-1.gif)
図1 串本・浦神の水位差と目視観察結果(a)と潮岬東・西岸の5m水温
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図2 小蛇行通過直前(a),直後(b)の100m流況
![](./feis1111-2.gif)
図3 小蛇行通過直前(a),直後(b)の100m水温分布
[その他]
研究課題名:海洋構造変動パタ−ン解析技術開発試験事業
予算区分 :経常(漁海況予報事業)
研究期間 :平成11年度(平成10年度)
研究担当者:竹内淳一・諏訪 剛
発表論文等:潮岬沖を通過する黒潮小蛇行と沿岸海況−1998年 5月〜 6月の事例−、関東・東海ブロック水産海洋連絡会報、平成11年、1999(印刷中)