和歌山県沿岸におけるカジメ類藻場の変動要因の解明
- [要約]
- 本県沿岸域におけるカジメ類の分布は、年平均水温が20℃以下の地先に認められた。また、群落の変動が激しい地先の年平均水温は20℃前後であり、大規模に消失する年は、10〜12月に高水温で推移する傾向が認められた。
カジメ類の主な食害生物はブダイであり、秋季に食害量が最も多くなるが、この時期
の食害は藻体へのダメージが大きいと推測された。
和歌山県農林水産総合技術センター水産試験場 開発部
[連絡先] 0735-62-0940
[推進会議]瀬戸内海ブロック
[専門] 資源生態
[対象] 藻類
[分類] 研究
- [背景・ねらい]
- 和歌山県沿岸域におけるカジメ類の生育量は海域、年によって大きく異なる。しかし、その変動要因については明らかになっておらず残された課題となってきた。ここでは、本県沿岸域(太平洋中部域)における変動要因を明らかにし、藻場の変動機構を解明することをねらいとした。
- [成果の内容・特徴]
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- 藻体の季節変化:標識個体の生長追跡により、1〜8月は生長期、9〜12月は衰退期という葉部各形質の明瞭な季節変化を確認した。中でも 1月の側葉数は、静岡県(カジメ)や徳島県(クロメ)のものに比べて少なく、本県の特徴として葉部の著しい衰退(季節変化)が挙げられた。
- カジメ類の分布と水温の関係:年平均水温とカジメ類の生育状況を比較すると、安定域では17.9〜19.1℃、変動の激しい海域で19.0〜21.2℃、非生育域で20.2〜22.6℃であり、20℃を境に生育が制限されていた(図1、2)。
- カジメ類の盛衰と水温の関係:カジメ群落が大規模に衰退した年の特徴をみると、藻体の衰弱している10〜12月の水温が過去10年間の平均水温(10〜12月:22.9〜16.6℃)よりも月平均で0.9〜1.4℃高く推移していた(図3)。
食害生物の影響:葉部の切断試験を実施したところ、残存部分が少ないほど生残率が低下た。また、生長点を残して葉部のほとんどを切断した場合、春季の個体は半数近くが回復傾向を示すが、秋季の個体は大半が回復傾向を示さずに流失した。秋季のブダイ等による食害は藻体への影響が非常に大きいと考えられた(図4)。
- [成果の活用面・留意点]
- 磯焼け現象の原因究明や漁場診断等の資料となる。県下各地の特徴を反映した藻場造成事業
計画等に活用できる。
[具体的データ]
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図1 県下各地の年平均水温の推移(カジメ類成育状況との比較)
加太は安定域,比井崎・串本東・勝浦は不安定域,田辺・串本西は非成育域
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図2 和歌山県沿岸におけるカジメ類の成育状況
(400mライン調査における岩盤上での被度,1933〜'95)
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図3 比井崎および勝浦における月平均水温の1986〜1998年の平均偏差
×:磯焼け発生年,△:磯焼けが前年から継続した年
◎:磯焼けから回復した年,○:回復傾向が継続した年
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図4 葉部の切断による側葉再生率の変化
春:1998年3月31日試験区設定
秋:1998年11月14日試験区設定
A:葉部のほとんどを切断
B:全ての側葉を切断
[その他]
研究課題名:藻場の変動要因の解明に関する研究
予算区分 :国庫補助
研究期間 :平成7〜11年度
研究担当者:山内信、上出貴士
発表論文等: