アマモの花枝形成に関する生育水温の影響について


[要約]
ほとんどのアマモが一年目に花枝を形成する備前市片上湾産アマモに関して、生育水温が花枝形成に影響する時期について検討した。その結果、花枝形成が決まる時期は草丈80〜300mmの成長段階内にあると推察され、その時期の生育水温が低いほど花枝形成率は高くなった。

岡山県水産試験場

[連絡先] 0869-34-3074
[推進会議]瀬戸内海ブロック
[専門]  藻類生態
[対象]  アマモ
[分類]  研究


[背景・ねらい]
アマモ場は多くの魚介類の産卵場や稚魚の成育場となるほか、窒素やリンの吸収や酸素の供給も含め海の浄化という役目も担っている。しかし、この藻場が現在、埋め立てや海水の汚濁などで全国的に衰退してきている。これら消滅した藻場を復活させるため、各地で種子を播種する方法(播種法)や、栄養株を移植する方法(移植法)が試みられている。
本県では播種法による藻場造成を検討しており、広域的な藻場造成には大量の種子調達が必要である。そこで、大量のアマモ種子を調達するため、花枝(生殖株)形成に関する環境要因とその決定時期を明らかにするための試験を実施した。
[成果の内容・特徴]
水温の異なる水槽(自然水温、自然水温+2℃、+4℃、+6℃。いずれも微流水。)で生育させることにより、花枝形成率・草丈・葉数がどのように変化するのかを観察した。
12月に片上湾のアマモ場で採取した実生株(平均草丈168mm、標準偏差52.5)では高水温区で花枝形成率が低下したが、1月に同様に採取した実生株(平均草丈304mm、標準偏差67.8)では、いずれの水温条件下でも花枝形成率が90%以上と高率であった(図−1)。(観察:5月3日)
一方、12月に播種し成長した発芽体(平均草丈81mm、標準偏差11.9)では、その後の水温が高いほど花枝形成率が低下した(図−2)。(観察:6月12日)
これらの試験より、草丈約80mmではその後の水温変化により花枝形成率に変化が見られたが、草丈300mmではその後の水温変化により花枝形成率に変化が見られなかったことから、片上湾産アマモの花枝形成は生育水温の影響を受け、その決定時期は草丈約80〜300mmの成長段階内にあると考えられた。

[成果の活用面・留意点]
「多年生藻場」である牛窓町黒島のアマモ場で採取した種子を用いた場合、いずれの条件下でも花枝を形成しなかったことから、「多年生藻場」と「一年生藻場」では花枝形成機構が異なる可能性があると思われる。
また、片上湾のアマモ場で採取したアマモと、陸上水槽で播種し生育させたアマモの花枝形成率を比較すると、前者の方が明らかに高率であったことから、花枝形成に影響を与える要因は水温以外にも存在すると思われる。
[具体的データ]


図−1:採集時期別,水温差別アマモ花枝形成率
(植え替え時の平均草丈・・・12月168mm,1月:304mm)


図−2:播種からによる水温差別花枝形成率
(植え替え時の平均草丈・・・81mm)

[その他]
研究課題名:アマモ花枝形成機構の解明
予算区分 :マリノフォーラム21から委託
研究期間 :平成10年度〜平成13年度
研究担当者:小宮山
発表論文等: