山口県一部海域におけるトリガイの生態と資源の合理的利用法の提言
- [要約]
- 山口県大島郡橘町地先のトリガイ資源の主体は秋期産卵群で、1月に殻長10〜30mmの稚貝が出現して8月には70mm台に成長するが、10月までに死滅した。死亡原因は、高水温で飼育しても死亡しないことから、成熟期の栄養失調が最も疑われた。この群は、6月以降肥満度が低下し、9月に生殖腺が成熟しないので、5月に漁獲するか 、7月に種貝として採取し、移植・蓄養することが合理的な資源利用法と考えた。
山口県水産研究センター内海研究部
[連絡先] 083-984-2116
[推進会議]瀬戸内海ブロック
[専門] 資源生態
[対象] 他の二枚貝
[分類] 研究
- [背景・ねらい]
- 大島郡屋代島北部海域では、貝桁網が終漁する4月頃、小型のトリガイが多数見られるものの、11月以降の貝桁網漁期には漁獲されないという問題があった。この研究は、当該海域の漁業者の要望に基づき、資源の合理的な利用方法を明らかにするため、トリガイの生態とそれに関わる環境要因についてプロジェクトチームを編成して総合的に実施した。
- [成果の内容・特徴]
- 資源の消長を把握(図1、図2)
- 資源の主体は秋期発生群で、1月に殻長10〜30mmで出現し、3、4月に数を増して資源形成
- 1998年7月の資源量は166トン、1999年5月の資源量は77トンと推定
- 秋期発生群は殻長70mm台に達するが、7月あるいは8月から漸減して10月までに死滅
- 春期発生群は9月に殻長20〜30mm台が少数出現し、12月までに死滅
- 肥満度は1月から5月の間は高く、6月から11月の間は低い
- 調査海域の水質・底質環境を把握
- 底層水温は8月ないし9月の25℃台が最高
- 底層水(海底上1m)の溶存酸素量は7月もしくは8月が最低で、いずれも4.8ppm
- 底泥のCODは24.3〜36.8mg/g、TSは0.23〜0.41mg/g、ILは10.8〜12.4%、泥分率は98%以上で、いずれも一般的な海域よりも高い
- 赤潮形成プランクトンは出現してもきわめて低密度で、 Heterocapsa circularisquamaは不検出
- 高水温耐性を証明(図3)
- 25℃から徐々に水温を上げ、32日間の高水温飼育を実施したが29℃まではほとんど斃死せず
- 秋期発生群が秋に産卵しないことを組織標本で確認
- 3〜6月に一部の個体で生殖腺の発達が見られ、その最小個体の殻長は20mm
- 8月以降死亡するまでの間、生殖腺はほとんど発達しない
- 同群を5月から垂下式篭養殖したところ、殻長の成長が不良でいわゆる「変形貝」となったが、9月には多数の個体で生殖腺が発達
- 死亡原因と資源利用方法について考察
- 水質環境、底質環境、ヘテロカプサ等赤潮形成プランクトンなどを調べても、単一で致命的な要因が見いだせない一方、やせた条件下で成熟促進の因子が作用していると推定されるので、死亡原因としては成熟期の栄養失調が最も疑わしく、餌料面からの検討が必要
- 調査海域のトリガイは再生産に関与しないので、低いながらも商品価値を有する5月の時点で漁獲するか、7月に種貝として採取し、生息に適した海域へ移植・蓄養することが合理的な資源利用法
- [成果の活用面・留意点]
- 資源利用方法は屋代島北部海域のトリガイ資源が再生産を行っていないことに基づいて考察したが、他海域のトリガイ資源には必ずしも適用できないことに留意する必要がある。
[具体的データ]
![](./feis1120-1.gif)
図1 試験操業で採取したトリガイの殻長組成と発生群別平均殻長
実践は発生群別平均殻長,破線は採取個体数をそれぞれ表す
![](./feis1120-2.gif)
図2 試験操業で採取したトリガイの肥満度組成と発生群別平均値
実線は発生群別平均肥満度,破線は採取個体数をそれぞれ表す
肥満度=軟体重量g/殻長mm3×105
![](./feis1120-3.gif)
図3 水温の推移とトリガイのへい死
[その他]
研究期間 :平成10〜11年度
研究担当者:木村 博・檜山節久・松野 進・馬場俊典・立石 健・高見東洋・中野義久
発表論文等:平成10年度大島郡橘町地先トリガイ資源生態調査、平成10年度山口県内海水試報告、第28号、2000(印刷中)。
山口県の一部海域におけるトリガイ資源の管理に関する研究、平成11年度山口県水産研究センター報告(予定)。