コリオジェニンによる内分泌かく乱物質の魚類への影響評価法の開発と実態把握


[要約]
 マコガレイを対象とし、コリオジェニン(卵膜蛋白前駆物質)の免疫学的定量法を確立すると共に、内分泌かく乱物質環境ホルモン)の影響を評価するための高感度バイオマーカーとして用い得ることを明らかにした。
瀬戸内海区水産研究所 環境保全部 生物影響研究室
[連絡先] 0829-55-0666
[推進会議]  瀬戸内海ブロック水産業関係研究試験推進会議
[専門] 漁場環境
[対象] 魚類
[分類] 研究

[背景・ねらい]
 コリオジェニンは、環境エストロゲンのバイオマーカーとして一般化されつつあるビテロジェニン(卵黄蛋白前駆物質)よりも低濃度のエストロゲンにより産生誘導されることを示唆する報告がある。本研究は、エストロゲン作用を持つ内分泌かく乱物質の高感度バイオマーカーとしてのコリオジェニンの有用性を確認するとともに、雄魚の血中コリオジェニン量を指標として、化学物質による魚類の雌化の程度を把握することを目的とする。

[成果の内容・特徴] 

  1. マコガレイの血清を出発材料とし、陰イオン交換、ヒドロキシルアパタイト及びゲル濾過カラムクロマトグラフィーの組み合わせにより、40kDa(CgL)及び65kDa(CgH)の2種類のコリオジェニンを精製し、各々の時間分解蛍光免疫測定法(TR-FIA)による定量法を確立した。定量範囲は、CgL、CgH共に0.1〜10,000ng/mlであった。
  2. マコガレイをエチニルエストラジオールに1週間暴露した結果、CgL、CgH、ビテロジェニンは各々1ppt、10ppt、100pptで血中量が有意に上昇した(図1)。また、オクチルフェノール暴露試験では、CgL、CgH共に1ppbで有意に上昇し、ビテロジェニン(100ppb)と比較して低濃度で産生が誘導された(図2)。以上の結果から、コリオジェニンはビテロジェニンよりも感度の高いバイオマーカーとなり得ることが明らかになった。
  3. 太田川河口域(広島市)及び宮島周辺海域で4月に採集したマコガレイの影響実態を調べた結果、雌の血中CgL量は、太田川で平均4.7ng/ml、宮島で7.9ng/ml、CgH量は太田川で18.1ng/ml、宮島で11.8ng/mlであった(図3)。一方、雄の血中CgL量は、太田川で平均約2.1ng/ml、宮島で1.4ng/ml、CgH量は太田川、宮島共に0.6ng/mlであった(図4)。血中CgL、CgH量共に雌が雄よりも有意に高く、特に雌では生殖腺指数(単位体重当たりの生殖腺重量)との相関が認められた。なお、両水域間での有意な差は認められず、内分泌のかく乱も検出されなかった。
  4. 本成果は、海産魚では世界で最初にコリオジェニンの絶対量を測定した例である。

[成果の活用面・留意点]

  1. TR-FIAは、高感度かつ定量範囲の広い優れた手法であるが、測定には特殊な機器を必要とする。しかし、標識物質(ユーロピウム)を酵素(ホースラディッシュパーオキシダーゼなど)に置き換えることにより、一般的なマルチプレートリーダーを用いた酵素免疫測定法での測定が可能である。ただしその場合には、定量可能範囲が狭くなると思われる。
  2. コリオジェニンやビテロジェニンは、魚自身が影響を受けている水環境中のエストロゲン活性を示す優れたバイオマーカーであるが、それらの値が持つ意味(繁殖に悪影響の出る閾値など)を明らかにする必要がある。

[具体的データ]


[その他]
研究課題名:新規バイオマーカーによる内分泌かく乱物質の魚類への影響評価法の開発と実態把握
予算区分: 農林水産業における内分泌かく乱物質の動態解明と影響実態把握(環境ホルモン総合研究)
研究期間: 平成12年度(平成11〜14年度)
研究担当者:藤井一則,角埜 彰
発表論文等:藤井一則,角埜 彰,原 彰彦(2000),エストロゲン誘導型卵膜関連蛋白質の定量,
      第6回バイオアッセイ研究会・日本環境毒性学会合同研究発表会講演要旨集,p68