紀伊水道における底層冷水とプランクトン量の経年変動特性


[要約]
 紀伊水道のプランクトン量にみられる年/約10年スケ−ルの変動について調べた。プランクトン・ピ−クが出現する季節は,1970年代,1980年代,1990年代の三つの年代ごとに約10年スケ−ルで特徴的に変化した。サバ類の漁獲量にも,これに関連するような変遷が示された。このような生物生産にみられる約10年ごとの変遷は,紀伊水道に発生する底層冷水の強さに規定されることが示唆された。
和歌山県農林水産総合技術センタ−水産試験場資源部
[連絡先] 0735-62-0940
[推進会議]  瀬戸内海ブロック水産業関係研究試験推進会議
[専門] 生物生産
[対象] プランクトン
[分類] 研究

[背景・ねらい]
 紀伊水道では,夏季に外洋性中層水(低温・高塩・高栄養塩)が底層に侵入することがあり,栄養塩類の供給機構の一つとして注目されている。この底層冷水現象は,幼稚魚の成育場である紀伊水道内で,しかも生物生産の盛んな季節に起こることから,漁業に及ぼす影響について関心がもたれていた。

[成果の内容・特徴] 
 紀伊水道における生物生産(プランクトン量,サバ漁獲量)とそれに関わる海況の年/約10年スケ−ル変動について調べた。デ−タの期間は,1972-1998年の26年間である。結果は,次のようにまとめられる。

  1. プランクトン量の季節変動は,次の三つの年代ごとに特徴的な違いがみられた(図1, 図2a)。1970年代(T)は Noctilcaと Copepoda が優占する春・夏季にピ−クがあり, 1980年代(U)にはピ−クが秋・冬季へシフトし,Coscinodiscus が優占種となった。1990年代(V)になるとプランクトン量はきわめて少なくなり,ピ−クはまったくみられ なくなった。
  2. サバ類の漁獲量(図2b)では,1970年代(T)は春季と秋季に二つのピ−クがあり,1980年代(U)になると春季のピ−クが消失し,秋・冬季のピ−クのみが残った。つ づく1990年代(V)は夏・秋季のピ−クで,それまでほとんど漁獲されなかった暖海 性のゴマサバの混獲割合が1990年代半ば以降急増した。
  3. このような生物生産の年代的な変遷は,大きくみると1977年と1980年代末にはじまる レジ−ムシフトに関連し,直接的には潮岬沖の黒潮の位置と流路などに伴って発生 する紀伊水道の底層冷水の強さで規定されるらしいことが示唆された。とくにUの年代は,黒潮の中規模離岸(30-60マイル)があり,夏季に底層冷水現象 が集中的に出現した(図3)。ただし,Uの年代でも黒潮の接岸年('85)あるいは夏季に 接岸から離岸へ変化する場合('86,'89,夏季に小蛇行が通過した年)には,底層冷水現象 が起こらない(図3)。矢印で示した7回の秋・冬季プランクトン・ピ−ク年のうち, 6回が底層冷水年と一致している。海洋環境が低温・高栄養塩へ変化し,それが継続  したことで,秋・冬季プランクトン・ピ−クの出現につながったと理解されよう。
[具体的データ]


図1 プランクトン湿重量(g/m3)の変動(月別デ−タ,T,U,Vは年代区分,矢印は秋冬季ピ−ク)


図2 紀伊水道におけるプランクトン湿重量(a)・サバ類漁獲量(b)の年代別(T,U,V)季節平均


図3 潮岬南沖の黒潮位置(a,●:7-9月平均値)と紀伊水道の50m水温(b,●:7-9月最低値)
 縦の破線:底層冷水年,矢印:秋・冬季のプランクトンピ−ク年,横の破線:30マイル


[その他]
研究課題名:
予算区分: 漁海況予報事業
研究期間: 平成12年度(昭和47年度〜平成10年度
研究担当者:竹内淳一
発表論文等:
竹内淳一(2000):紀伊水道における底層冷水構造とプランクトン量の経年変動特性,
   2000年度海洋気象学会シンポジウム 瀬戸内海−海洋構造と生物,水質の関係−
   ,(平成12年12月12日,神戸市)で発表。海と空に投稿予定。