ホンダワラ類の組織培養による増養殖用種苗生産技術開発


[要約]
 多年生ホンダワラ類の種苗生産に組織培養手法を応用し、繁殖期に制限されることなく周年通じて苗を供給することが可能となった。磯焼け海域に移植した培養苗の生長点を物理的に保護することで、食い尽くされることなく餌料効果が持続できた。
和歌山県農林水産総合技術センター  水産増殖試験場・研究部
[連絡先] 0739-22-0506
[推進会議]  瀬戸内海ブロック水産業関係研究試験推進会議
[専門] 増養殖技術
[対象] 他の藻類
[分類] 研究

[背景・ねらい]
従来、有用海藻の移植藻場造成においては、陸上の植林などとは異なり、繁殖を介して「植えた本数以上に増殖する」ことが当然のように要求されてきた。これは、凋落の激しい海藻の場合、林木に比べると一本の存在価値が低いうえに、種苗生産が短い繁殖シーズンに制約され、さらに海中での移植工事が大掛かりなためである。しかしながら、有性生殖による爆発的な増殖を期待する従来の方法では、繁殖の結果無秩序に発生した新芽に食害防護対策を施すことが難しく、半年も経たないうちに根こそぎ食い尽くされてしまうのが現状である。
そこで、ホンダワラ類の種苗生産に組織培養手法を採用し、繁殖期に制約されることなく一年中大量の苗を供給することができる生産手法の開発を進めた。また、簡易な移植工法および資材、食害防護策を開発し、移植第一世代のみで餌料環境および生息環境の機能を果たす"鉢植え藻場"の造成を目指した。

[成果の内容・特徴] 

  1. トゲモク、ノコギリモク、ヤナギモクの藻体下部組織を静置培養した結果、3割以上の確率で出芽させることができた。また、出芽した組織を通気培養した結果、30日程度で移植可能なサイズの苗を得ることができた(図1)。
  2. 培養苗を磯焼け海域に移植した結果、根および茎を形成し、天然の個体とほぼ同じ形状となった(図3)。
  3. 移植個体の生長点を高さ74mmの中空カップ(図2)で保護した結果、藻体の上部のみ摂餌されるものの、食べ尽くされることなく再生を続けた(持続的な餌料効果)。魚類の食圧が落ちる冬期には、最大28cmまで生長した。

[成果の活用面・留意点]

現在、培養苗を摂餌しているのは、魚類、小型巻貝類、ウニ類であり、有用貝類(アワビ類等)の直接的な"い集効果"は確認されていない。本研究による成果(培養苗による人工藻場)の活用方向としては、(1)餌料生物(葉上生物、浮遊生物、小型巻貝類、小型魚類など)のい集・増殖基地、(2)有用生物(ブダイ、アイゴなど)の直接的な餌料環境、(3)有用生物(メバル、カサゴ、マアジ稚魚など)の生息環境、(4)有用生物(アオリイカなど)の産卵場、(5)流れ藻生態系の供給源などを想定している。

[具体的データ]


図1.培養苗(ノコギリモク)


図2.食害防護カップ


図3.移植から約1年後のヤナギモク


[その他]
研究課題名:ホンダワラ類の組織培養による増養殖用種苗生産技術開発
予算区分: 補助事業(地域先端技術共同研究開発促進事業)
研究期間: 平成12年度(平成10〜11年度)
研究担当者:樫山晃晴
発表論文等: