鰭条数によるマコガレイ人工種苗個体の判別について


[要約]
 マコガレイ天然稚魚と人工種苗鰭条数(背鰭・臀鰭)を計数したところ,両者に差異が見られ,いずれも人工種苗で鰭条数が多かった.また,漁獲物についても鰭条数を計数した結果,人工種苗と考えられる個体がみられた.
大阪府立水産試験場 第2研究室
[連絡先] 0724-95-5252
[推進会議]  瀬戸内海ブロック水産業関係研究試験推進会議
[専門] 資源評価
[対象] 他の底魚
[分類] 研究

[背景・ねらい]
 マコガレイは大阪府下の小型底びき網,刺網における重要資源である.府下の漁業者は平成5年から資源管理に取り組んでおり,底びき網では小型魚(全長15cm未満)の漁獲制限,刺網では産卵親魚の保護を目的に12月25日から翌年の1月15日にかけて禁漁期を設けている.また,大阪府立水産試験場付属栽培漁業センターにおいては,平成4年からマコガレイの種苗放流を開始し,平成11年には体長約2〜5cmの人工種苗を45万尾を放流している.しかしながら,このような取り組みにもかかわらず漁獲量は平成4年をピークにここ数年減少傾向にある.平成10年度から開始された複合的資源管理型漁業促進対策事業の中で,過去(昭和63年)の結果と比較し現状の問題点を抽出することを目的としてマコガレイの資源解析を行ったが,その際,漁獲物における人工種苗の混獲率を明らかにする必要が生じた.しかし,マコガレイ人工種苗の混獲率については未だ明らかにされておらず,その一つの要因として有効な判別方法が存在していないことが挙げられる.そこで,鰭条数の違いを指標として,人工種苗と天然稚魚の判別を試みた.

[成果の内容・特徴] 

  1. 1998〜2000年群について,人工種苗と天然稚魚で背鰭,臀鰭鰭条数を計数したところ,いずれも  分布範囲に差が見られた.平均値では背鰭,臀鰭ともに人工種苗の方が多かった(t検定による).  漁獲物についても鰭条数の計数を行ったところ,平均値はほぼ天然稚魚と一致したが,分布範囲  は人工種苗でのみ見られた鰭条数も含んでいた.(表1)
  2. 背鰭,臀鰭条数の組み合わせ分布をみると,天然稚魚と人工種苗は完全には分離しなかったが,  人工種苗のみ分布する範囲がみられた.漁獲物の分布は天然稚魚と概ね重なったが,人工種苗の  みが分布する範囲に含まれる個体もみられ,これらについては人工種苗である可能性が高いと考  えられた.(図1)

[成果の活用面・留意点]

  1. 今回の結果から,現在まで有効な判別方法がなく不明であったマコガレイ人工種苗の混獲率を推定するにあたり,鰭条数は一つの手がかりになると考えられる.しかしながら,鰭条数だけでは,人工種苗と天然魚を完全に分離することは出来ず,また,鰭条数の多い個体が本当に人工種苗であるかどうかという確証は得られていない.今後は,標識放流調査等と組み合わせて確証を得ると共に,より精度の高い判別形質の検討も進める必要があろう.

[具体的データ]

表1.各群における鰭条数計数結果


図1.各群における背鰭・臀鰭条数組み合わせ分布
 (左)人工種苗と天然魚
 (右)天然魚と漁獲物


[その他]
研究課題名:鰭条数によるマコガレイ人工種苗個体の判別方法について
予算区分:国費補助(1/2)
研究期間:平成11〜12年度
研究担当者:大美博昭・辻村浩隆・日下部敬之・有山啓之
発表論文等:大美博昭(2000)マコガレイPleuronectes yokohamae における人工種苗と
      天然魚および漁獲物の鰭条数の違いについて.第1回瀬戸内海魚類研究会報告,15-18.