アオリイカの漁獲量はなぜ増加したか。


[要約]
 徳島県沿岸域のアオリイカ漁獲量予測するために,同一年に生まれた群の漁獲量とその群が生まれた産卵期から稚仔成育期を含む期間の環境要因との関係を調べた。その結果、アオリイカの漁獲量が産卵期稚仔成育期の水温や塩分と密接に関連したことから,高水温と高塩分がアオリイカの生き残りに好影響を及ぼしたと考えられた。
徳島県水産試験場海洋科
[連絡先] 0884-77-1251
[推進会議]  瀬戸内海ブロック水産業関係研究試験推進会議
[専門] 資源生態
[対象] 頭足類
[分類] 研究

[背景・ねらい]
 アオリイカ(図1)は筋肉質に富み,美味なことから,頭足類の中でも最も高価に取り引きされ,ごく沿岸の重要資源の一つになっている。徳島県海部郡沿岸では,小型定置網および釣りで年間約40〜160トン漁獲され,秋冬期の沿岸漁業の主要な漁獲対象資源になっている。特に平成6年以降アオリイカの漁獲量は著しく増加傾向にあり、最も対象漁業者が多い魚種となっている。漁期前にアオリイカの漁獲量予測を実施することや資源の多少を決める環境要因を明らかにすることは秋冬期の漁業経営の安定を図る上で重要である。

[成果の内容・特徴] 

 徳島県沿岸域のアオリイカ漁獲量を予測するために,同一年に生まれた群の漁獲量(9月〜翌年8月までの漁獲量)とその群が生まれた産卵期から稚仔成育期を含む期間(4〜9月)の環境要因との関係を調べた。環境要因としてアオリイカの産卵場とふ化稚仔の育成場になっている海部郡沿岸域の水深10mの水温(X1)と塩分(X2)および徳島市の大気圧(X3)と降水量(X4)を説明変数に,9月から翌年8月までの漁獲量を目的変数として,重回帰式Y = - 1988 + 35.9X1 + 40.7 X2を得た。この式より,9月上旬の漁期当初にその年に生まれたアオリイカの漁獲量を予測できる(図2)。アオリイカの年級群豊度が産卵期と稚仔成育期の水温や塩分と密接に関連したことから,高水温と高塩分がアオリイカの生き残りに好影響を及ぼしたと考えられる。

[成果の活用面・留意点]

 漁期前に精度の高いアオリイカの漁況予測手法が確立された。アオリイカ同様に本来南方中心に分布する暖海性の頭足類であるカミナリイカやコウイカの漁獲量も近年の高水温化傾向にともないが増加傾向にある。

[具体的データ]


図1 水揚げされた外套背長27cmのアオリイカ♀。活き〆されたアオリイカは水イカと呼ばれるように透明感が非常に強い


図2 徳島県沿岸におけるアオリイカの産卵稚仔育成期にあたる4〜9月の平均水温(X1)および平均塩分(X2)の経年変化(上段図)と実際の年級群漁獲量(9月から翌年8月の合計漁獲量)および重回帰式を用いて予測されたアオリイカの漁獲量(Y)の経年変化(下段図)。


[その他]
研究課題名:漁海況調査事業として実施した。
予算区分:漁海況調査事業(国補)
研究期間:平成9年度〜平成13年度
研究担当者:上田幸男
発表論文等:Ueta, Y., T. Tokai, and S. Segawa: Relationship between year-class abundance of the
          Oval Squid Sepioteuthis lessoniana and Environmental Factors off Tokushima Prefecture,
            Japan. Fisheries Science, 65, 424-431(1999).