サワラの標識放流について


[要約]
 サワラの外部標識装着技術の検討を行うとともに、焼印方式による標識放流を実施した。標識魚の再捕結果及び小割生簀での継続飼育の結果から、焼印標識で、約半年程度の追跡は可能であると考えられた。
香川県水産試験場
[連絡先] 087-843-6511
[推進会議]  瀬戸内海ブロック水産業関係研究試験推進会議
[専門] 資源生態
[対象] 他の浮魚
[分類] 調査

[背景・ねらい]
 激減している瀬戸内海のサワラ資源の回復に向け、資源管理や種苗放流の取り組みが進められている。これらの事業成果を明確にし、資源の実態を正確に把握するためにも、標識放流は有効な手法と考えられるが、サワラについては、標識技術が確立されていない。
 そこで、外部標識装着技術の検討と、現状で実施可能と判断された焼印による標識放流を行い、放流後の移動・成長等の調査を試みた。
 また、種苗生産技術開発を行っている(社)日本栽培漁業協会屋島事業場でも、焼印標識及びALCを用いた耳石への内部標識による標識放流が実施されているので、試験操業その他で入手した検体魚については、これらも併せて確認を行った。

[成果の内容・特徴] 

  1. サワラ稚魚は、他魚種に比較して取り扱いに弱く、標識作業時には注意を要するが、全長8〜20cmの稚魚に対し、11〜15℃の冷海水(地先海水温20〜25℃)による麻酔を行うことで、外部標識の装着作業を円滑・安全に行うことができた。
  2. 全長18cmで実施したダート型タグの装着試験では、約3週間後のタグ残存率が10%と非常に低率となり、再検討が必要である。
  3. 7月上旬に焼印標識魚4,800尾(うち、2,300尾は日栽協)とALC標識魚3,922尾(日栽協、一部焼印との重複あり、)が放流された。<焼印標識魚:図1>
  4. 12月中旬までに、215尾の検体魚を入手し、このうち焼印標識魚5尾、ALC標識魚6尾(うち1尾は焼印と重複)が確認された。<表1及び図2>
  5. 焼印標識は、全長10〜12cmで実施したが、放流魚の再捕結果及び小割生簀での継続飼育結果から、約半年間程度の追跡が可能であると判断された。
  6. 再捕結果から、サワラ当才魚は、10月頃までは備讃瀬戸〜播磨灘海域に滞留しているが、その後、水温低下とともに紀伊水道方面へ移動することが示唆された。<図3>

[成果の活用面・留意点]

  1. 標識作業時の取り扱いについて、冷海水の使用で一応の目安を得たが、厳密な生理データを得ていないので、その他の条件も十分に考慮する必要がある。
  2. 焼印標識は、約半年後まで確認できたが、成長とともに輪郭が不明瞭となるため、漁獲物の状態によっては、確認が困難な場合も予想される。
  3. 標識放流の試みを開始したばかりであり、今後、調査範囲及びデータ数の拡大を図るとともに、長期間かつ容易に追跡が可能な標識手法の検討が必要である。

[具体的データ]


図1 焼印標識魚
(上段:放流時、下段:76日目

表1 検体魚の調査結果


図2 検魚体の尾叉長


図3 サワラ標識魚再捕位置図


[その他]
研究課題名:複合的資源管理型漁業促進対策事業
予算区分:国補事業
研究期間:1999−
研究担当者:坂本 久、植田 豊、竹森弘征
発表論文等:第1回・第2回瀬戸内海魚類研究会報告