赤潮の原因はプランクトン
 夏になると赤潮が発生して海が真っ赤に染まることがありますが、これはプランクトンの異常発生が原因です。日本の沿岸で赤潮を引き起こすプランクトンは300種類ぐらい知られていますが、そのほとんどは魚にも人間にも害はありません。しかしこの内20種類ほどのプランクトンは、魚を殺したり人間に悪い影響を及ぼす毒素を作ります。このため、魚や人間に有害なプランクトンがいつどういう条件で発生するのか、どんな毒素が関係しているのか調べることが重要となっています。

ヘテロカプサとは
 ここ10年ぐらい、日本では新しい赤潮プランクトンの発生が見られるようになってきました。その中でもヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ(以後ヘテロカプサ)はカキやアサリ、真珠を作るためのアコヤガイなどの貝類を殺すプランクトンとして恐れられています。ヘテロカプサは、渦鞭毛藻と呼ばれる植物プランクトンの仲間で、1995年に新種として登録されました。このヘテロカプサは、1988年に日本で始めて確認されて以来、西日本を中心に急速に分布を拡大しました。しかしこのプランクトンがなぜ大発生するようになったのか、またなぜ貝類が死んでしまうのか全く分かっていませんでした。研究の結果、次のようなことが判明しました。

どうしてヘテロカプサが発生するの?
 まずヘテロカプサは元々日本沿岸には分布せず、南方の海に分布していたプランクトンであることが分かりました。理由はこのプランクトンが30゚C以上という日本沿岸ではあり得ない暖かい海水の温度を好むからです。また逆に寒さに弱く、10゚C以下の水温になるとすぐに死滅してしまいます。ところが1988年以降はエルニーニョなどの影響で暖冬が続き、冬になっても水温が下がらないため、本来死んでしまうはずのヘテロカプサが越冬して赤潮の発生が増えたと考えられています。また赤潮の発生は海底にヘドロが貯まり、夏場に海底の酸素濃度が低くなっている所に集中していることが分かりました。これは窒素やリンとかいったヘテロカプサが増えるのに必要な栄養源がヘドロから溶け出してくるからです。海底に貯まっているヘドロをこれ以上増やさないことがまず重要であることが示されたといえるでしょう。

どうして貝類が死んでしまうのか?
 ヘテロカプサを人工的に培養して調べた結果、ヘテロカプサは特殊な毒素を持っていることが分かりました。この毒素はアコヤガイ、カキ、アサリなどの二枚貝だけでなく、サザエやアワビを殺す作用もあることが分かりました。しかしマダイやハマチといった魚類、エビやカニなどの甲殻類、あるいはマウスなどのほ乳類には全く悪影響を及ぼさない風変わりな毒素です。貝を殺す力は相当に強く、海水がうっすらと着色する程度に増殖しただけで貝類は数日以内に死んでしまいます。また赤潮になる濃度の1/50程度に増殖すると餌を全く食べなくなります。貝は毒素にさらされると殻を激しく開閉してもがき苦しみ、最後は心臓麻痺を起こして死んでしまいます。このような特殊な毒素がプランクトンから発見されたのは初めてでした。

ヘテロカプサ赤潮への対策
 現在はヘテロカプサ赤潮が大発生する条件が少しずつ分かってきたので、予め赤潮が発生する前に避難することで被害を免れることができるようになりました。またヘテロカプサの毒素はプランクトンを押しつぶしたりしてショックを与えると何故か分解してしまいます。特殊な装置で赤潮を処理して毒素を分解させる装置も開発されました。こうした進展で少しずつですが、赤潮の脅威も遠のいています。