瀬戸内海区水産研究所
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研究所トピックス

1.貝毒の原因となる鞭毛藻類の分布拡大は人為的原因であると解明
 カキやホタテガイの毒化原因プランクトンのDNAマーカーを世界で初めて開発し、北半球の10地点から得た520株の遺伝子型を調べ、海流・潮流などの自然現象による個体群間の遺伝的交流がないことを証明しました。一方、海域の離れた2地点で遺伝的に差の見られない個体群が存在することを明らかにし、分布の拡大は人為的な要因によることを裏付けました。(日本DNA多型学会優秀研究賞授与:有毒プランクトン研究室主任研究官 長井 敏氏、平成16年12月)

2.核酸比によるカタクチイワシ仔魚の摂餌開始期における栄養状態判定手法を確立
 カタクチイワシ仔魚を飢餓に至るまで飼育し、摂餌開始後1〜2日目の間に餌を食べなかった場合には、その後に餌を与えても死亡してしまうことを明らかにしました。そのような仔魚の核酸比(RNA/DNA)の平均値は20℃で0.58、25℃で0.54であり、これ以下の核酸比となる仔魚は飢餓によって死亡するので、この値が以後の生死を判定する指標となることを明らかにしました。また、1日当たりタンパク質増重量と核酸比、飼育水温との関係式により、天然仔魚の核酸比と仔魚が採集された海域の水温をもとに生育の有無が判定できることを明らかにしました。これらによりカタクチイワシ仔魚の栄養状態を判定する手法が確立しました。

3.赤潮原因珪藻として普遍的なキートセロス属に感染するウィルスを発見
 汽水域に出現する赤潮原因小型珪藻類の一種であるキートセロス・サルスギネウムに感染する新奇ウイルスの発見・分離に成功しました。このウイルスは過去に発見されたあらゆるウイルスと異なるゲノム構造を持つとともに宿主特異性が高く、感染後24時間以内に珪藻を死滅させ娘ウイルスの放出する等の性状を解明しました。これにより赤潮原因珪藻として普遍的なキートセロス属へのウイルス感染が明らかになりました。

4.船底塗料用防汚剤の複合的使用による毒性の相乗的増大を確認
 有機スズ(TBT)の代替となる船底塗料用防汚剤では、複数の成分を混合して使用されることが多いことが知られています。それら成分のエビ類に対する急性毒性について、複合毒性試験をおこなったところ、亜鉛ピリチオンと銅の組み合わせにより毒性が大きく強まることを見いだしました。両成分の共存下で亜鉛ピリチオンが毒性の強い銅ピリチオンに変化している可能性が示唆されました。

5.浮遊幼生・稚貝の迅速判別定量法によるアサリ減少要因解明の取り組み開始
 資源の回復が全国的に切望されているアサリの減少要因を解明し、資源回復方策を提言するため、瀬戸内海沿岸各県と共同で、主に着底期の稚貝の移動・分散・生残に焦点をあてた組織的な生息環境調査を開始しました。この調査は、瀬戸内水研が開発し、特許を取得している浮遊幼生や稚貝の簡便な判別手法により初めて可能となりました。

6.農林水産研究高度化事業研究「瀬戸内海における養殖ノリ不作の原因究明と被害防止技術の開発」がスタート
 瀬戸内ブロックの課題が水産分野の地方領域設定型研究第1号として採択されました。これにより、水研センターは、岡山県、広島県、香川県及び京都大学、香川大学と共同で、本年度から3カ年の研究により瀬戸内海東部海域で発生している珪藻赤潮によるノリ色落ち原因を解明し、被害防止技術を開発いたします。

7.水研センターシンポジウム「エストロゲン様化学物質の水生生物に対する作用機構と影響実態」開催
 プロジェクト研究「農林水産業における内分泌かく乱物質の動態解明と作用機構に関する研究」(平成11〜14年)で得た成果(エストロジェン様化学物質の水生生物の内分泌系に対する作用機構の解明、その影響実態の把握)により、水研センター主催のシンポジウムを平成16年10月19日に広島市で開催し、今後の課題の整理を行いました。研究者を中心に35機関67名が参加しました。

8.新しい当所広報紙「瀬戸内通信」の刊行
 水研センター本部機能の一元化に伴う各研究所の広報の見直しに伴い、当所は、これまで発行してきた瀬戸内水研ニュースを一新し、「瀬戸内通信」として平成16年10月に第1号を刊行しました。瀬戸内ブロックの水産関係者や試験研究機関の方々に研究活動をわかりやすく伝えるのがねらいです。最新の研究成果情報を視覚的な表現で紹介する「絵で見る研究最前線」、社会的にも話題となっている専門分野の事柄について紹介する「キーワード解説」欄等を新設して紙面の刷新を図りました。

9.シャットネラ・オバータ赤潮の発生により緊急調査委員会設置
 本年6月、酷暑が続く瀬戸内海各地においてシャットネラ・オバータの赤潮が発生しました。平成16年7月22日には、この種により初めてマダイ、ヒラメ、ハマチ養殖場等における大量死がもたらされ1億円以上の漁業被害を受けたことが新聞で報道されました。この緊急事態に対応して平成16年7月23日に当所「赤潮緊急調査委員会」を設置しました。瀬戸内海における赤潮発生関連情報の収集を実施し既往知見の整理を行って水産庁、センター本部へ6回にわたる緊急情報を提供し、情報交換に貢献しました。

10.台風18号襲来
 平成16年9月7日午後、当所は台風18号の襲来に見舞われました。午後3時頃、高潮と重なって強風により海岸から打ち上げられた海水が構内まで流れ込み、開所以来の光景となりました。広島市中区では午後2時20分最大瞬間風速60.2メートルを記録し、宮島の国宝も大きな被害を受けました。桟橋可動橋損傷、研究用筏水没、倉庫倒壊など所内施設も被害を受け、復旧に必要な概算は6百万円を超えました。