瀬戸内海区水産研究所
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内田主任研究官が平成16年度日本水産学会論文賞受賞
 当研究所生産環境部内田基晴主任研究官他が執筆した原著論文「ワカメを原料としたマリンサイレージ※1の大量調製とアコヤガイ初期稚貝に対する飼料効果」に対し、平成16年度日本水産学会論文賞が授与されました。
 カキやアコヤガイ等の二枚貝類は、天然の微細藻類(図1)を餌料として利用しながらその養殖が行われています。そのため、年により餌不足となる状況が生じ、貝の身痩せや大量斃死が起こります。また魚の種苗生産の現場では、微細藻類を培養してワムシ(稚魚の餌)の餌として利用しながら稚魚を育てていますが、多大な労力とコストをかけているのが現状です。これらの問題は、微細藻類の培養が大変で大量安定供給が困難であることに起因しています。
 内田主任研究官は、海藻ワカメを単細胞化しながら乳酸発酵させる技術を開発しました(図2)。この技術により直径が約10μmの微小なワカメ粒子(MS)を安定的に調製できるため、微細藻類の代替餌料として利用できないかと考えました。そこで、まずワカメを原料としてMSを大量調製することを検討しました。その結果、微細藻類を培養する場合に比べ、数十倍も高い濃度で、MSを調製することに成功しました。またMSは乳酸発酵処理されていて、低pHであるため、常温(20℃)で18ヶ月間保存しても雑菌の生育等の問題がなく、大量安定供給可能な飼料素材であることが示されました。
 次に実際に、MSが餌としての価値をどれくらい有しているか調べるため、アコヤガイ稚貝を対象に飼育試験を実施しました。稚貝の殻の成長率で比較した結果、良い餌料の代表とみなされる微細藻類(キートセロス)の18.5%に相当する飼料効果を示しました(表1)。さらに少量の微細藻類を併用して給餌することでMSの飼料効果がキートセロス給餌の75.8%相当まで大きく改善されることがわかりました。
 本研究の意義は、海藻の単細胞化・乳酸発酵素材(MS)の大量調製を初めて検討した点及び得られたMSが水産動物に対して一定の飼料価値を有することを初めて示した点にあります。微細藻類との併用給餌によりMSの飼料効果が大幅に改善されることを認めたことから、将来、種苗生産の現場で微細藻類餌料の使用量を少なくする目的でのMSの使用が期待されます。また、少量の微細藻類餌料の存在が期待できる天然浅海域においてMSを粗放的に調製し、放出することで懸濁物フィーダーのエサとして機能させ、最終的に生物資源の生産力増大を図る里海(さとうみ※2)的なマリンサイレージの構想を発案する契機となりました。

※1 マリンサイレージ
牧草をそのまま餌料とするのでなく、蓄積・発酵させて餌料価値を高めてから餌料として戻す陸上の仕組みを、利用価値の低い海藻を材料として海に応用しようとするアイデア及びその発酵物。

※2 里海(さとうみ)
下草を刈るなど、よく手入れのされた山林は里山と呼ばれ、見た目に美しいだけでなく生産力も高い。海でもある程度手入れをすることで持続的で高い生産力を得ようとするアイデア及びその海域。

注:詳しい内容を知りたい方は、以下の文献を参照されるか、本人までご連絡下さい。

論文名
Mass preparation of marine silage from Undaria pinnatifida and its dietary effect for young pearl oysters*
[Fisheries Science 2004; 70(3): 456-462]
内田基晴1a, 故沼口勝之2, 村田昌一2
1(独)水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所
2(独)水産総合研究センター中央水産研究所

本人連絡先
 〒739-0452 広島県佐伯郡大野町丸石2-17-5
 独立行政法人水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所生産環境部
藻場・干潟環境研究室主任研究官
内田基晴
tel:0829-55-3430 fax:0829-54-1216
e-mail: uchida@affrc.go.jp