瀬戸内海区水産研究所
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外丸研究員に日本プランクトン学会奨励賞

 当研究所赤潮環境部外丸裕司任期付研究員の研究テーマ「赤潮プランクトンに感染するウイルスの生態研究と赤潮防除への応用研究」に対し,日本プランクトン学会奨励賞が授与されました。

 外丸くんが当研究所赤潮環境部において藻類ウイルス研究チームの一員として研究を開始したのは2000年4月のことです。大学院時代にアコヤガイの生態を専門としていた彼は,当初,藻類ウイルスというそれまでと全く異なる研究対象の扱いに大層苦労していたように記憶しています。しかし彼の持っていた粘り強い研究姿勢により,いつしかその難関を突破し,今では世界中の藻類ウイルス研究者が認める一線級の研究者になりました。そして,研修生,科学技術特別研究員,NEDO派遣研究員,科研費派遣研究員という身分を経て,本年5月から当研究所若手任期付研究員に採用されました。

 藻類ウイルス研究チームに加わって以来,彼が手がけた研究はきわめて多岐にわたります。有害赤潮藻であるヘテロシグマとウイルスの生態学的相互関係に関する研究では,綿密な現場モニタリングと並行して実に約6000通りの宿主株-ウイルス株間での接種試験を実施し,宿主であるヘテロシグマはウイルス感受性という点で,ウイルス側は種内宿主特異性という点で,それぞれきわめて多様な性状を示すことを明らかにしました。その後,これらのデータは,現場赤潮個体群中で起きている現象を詳細に考察した論文としてAquatic Microbial Ecology誌に掲載されました。投稿・審査時にreviewerやeditorから「膨大な仕事量と考察の内容に大層感心した」とのコメントをもらい,彼がとても喜んでいたのを覚えています。彼の研究人生の中でも,初期の時代の代表論文の一つに数えられることでしょう。

 また彼は,貝類斃死原因藻ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマと同種を宿主とする1本鎖RNAウイルスの間にきわめて密接な生態学的相互関係が存在することを,実に4年半にわたるモニタリングにより示すことに成功しました。最近では積極的に分子生物学的技術を導入した現象解明に踏み込み,この仕事を分子生態学的研究のトピックの一つとして発展させつつあります。

 さらに彼は,こうした藻類感染性ウイルスを利用して有害赤潮の予防・小規模化を実現するための研究にも携わり,ウイルスの保存性・安全性等に関する多くの知見を得ることに成功しました。実学的スタンスから自然現象を眺める能力を持った,バランスの良い研究者として育ちつつあると感じます。

 こうした彼の地道な努力が「奨励賞」という冠として讃えられたことは,共同研究者である私にとっても大層嬉しいことです。これに満足することなく,これからも「赤潮とウイルスの生態学」を究めるべく,常に最善の努力を積み重ねていってほしいと願います。

 外丸くん,よかったな。たぶんこれからもきついやろけど,がんばろな。

          (文責:赤潮制御研究室長)