瀬戸内海区水産研究所
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イベント情報
平成22年度 瀬戸内海区水産研究所 研究成果発表会を開催しました
平成23年2月15日追加
アンケートにお寄せいただいた各講演への質問について、各演者からの回答を掲載しました。

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研究成果発表会 開催報告

 平成22年10月30日(土)に西区民文化センター(広島市)にて『平成22年度 瀬戸内海区水産研究所 研究成果発表会』を開催しました。本発表会は、当所の研究成果を多くの方々にご理解いただくことを目的として、隔年で開催しております。通算9回目となる今回は、「海想い、魚想いの研究最前線」と題し、当所の4研究部より1題ずつの計4題について発表を行いました。

 当日は行政機関、水産関係団体、民間企業、また一般の方までと、県内外から52名の方々にご参加いただきました。それぞれの講演内容について、熱心な質問や意見交換がなされました。また、当日実施したアンケートには多くのご意見をいただきました。いただいたご意見については今後の運営に反映させるとともに、本発表会をより一層充実するよう努めていきたいと考えております。

 最後に、お越しいただいた皆様にはこの場をお借りし、御礼申し上げます。




■当日の様子 ※課題名をクリックすると各講演要旨(PDFファイル)が表示されます。

  平成22年度 瀬戸内海区水産研究所 研究成果発表会 要旨集


講演要旨集の
一括版はコチラ
(PDFファイル)
高柳所長による開会挨拶です。来場者の方々へ当所の研究開発の特色、今回の研究成果発表課題を選定するに至った経緯等を紹介しました。
【講演1】
遺伝子情報を利用して赤潮を早期発見
−有害プランクトンの検出・同定技術最前線−

坂本 節子
(赤潮環境部 赤潮生物研究室 主任研究員)
アンケートへの質問と回答
【講演2】
化学燃料が海の生き物に及ぼす影響
−石油を燃やすと生まれる化学物質−

隠塚 俊満
(化学環境部 生物影響研究室 研究員)
アンケートへの質問と回答
【講演3】
藻場が多いと魚も獲れる
−瀬戸内海の藻場の現状・特性とこれから−

吉田 吾郎
(生産環境部 藻場・干潟研究室 主任研究員)
アンケートへの質問と回答
【講演4】
魚ぉンテッド!放流魚を追え!
−食品添加物を用いた魚の新しい標識技術−

太田 健吾
(栽培資源部 栽培技術研究室 主任技術開発員)
アンケートへの質問と回答
開会前の会場の様子です。台風の影響が気になる天気でしたが、当日は雨も降ることなく、多くの方々にお越しいただきました。
全講演終了後に、岸田業務推進部長を座長として総合討論を行いました。 
Thank You ♪ 
来場者と各演者により、各講演への質疑応答や意見交換が活発に行われました。 


 アンケートへお寄せいただいた各講演への質問とその回答

  【講演1】  遺伝子情報を利用して赤潮を早期発見 への 質問と回答 
       
    質問1  Heterocapsa Circulariscama の種特異的プライマーに用いた塩基配列(周辺の領域)は、Heterocapsa の二枚貝への毒性と関係している可能性があったりするでしょうか?多種多様な渦鞭毛藻の中で本種のみに特異的配列(しかもそこに長い?)ということで気になっています。


    回答1  今回、プライマーに用いた塩基配列はリボゾーマルRNAをコードしている遺伝子領域なので、Heterocapsaの二枚貝への毒性と直接関係している遺伝子ではありません。この遺伝子領域は、種内では比較的変異が少ないが、種間で比較すると異なる塩基配列が含まれていることから、生物種の判別によく利用されています。


    質問2  キットが開発された場合の一回あたりのランニングコストはどの程度になりますか?


    回答2  栄研化学から販売されている試薬や消耗品(DNA増幅試薬キットや反応チューブ等)を用いた場合、1反応あたりのコストはおおよそ500〜600円程度です。ただし、種の判定にはコントロール(ネガティブおよびポジティブ)が必要になりますので、1検体の判定には1,500〜1,800円程度かかると思われます。1回あたりに分析する検体数が増えれば1検体あたりのランニングコストは下がります(例えば、6検体の判定には8反応が必要であることからおおよそ4,000〜4,800円となり、1検体あたりのコストは700〜800円程度になります)。


    質問3  LAMP法を現地で使うシステム作りについて、どの程度、進歩していますか?行政が行っている水質調査等を含め、漁民、住民が自主的に行えるシステムが必要ではないかと思いますか?


    回答3  現状では、各県の水産試験場(研究者レベル)で使用され始めたところで、まだ普及は進んでいません。LAMP法は技術的に簡単な操作で分析できる手法ですが、技術の導入には試料(DNA)の取り扱い方やピペットなどの理化学器具の扱い方といった、正確な分析をするためのいくつかの基本的技術を習得している必要があるため、まずは研究者への技術普及を進めるとともに、漁業者などが利用できるような技術講習会の開催、およびより簡易な検出キットへの改良が必要であると考えています。


    質問4  有害プランクトン300種のうち、LAMP法でどれだけ判るのか?判別の時間、プランクトン量、種の判別が現場レベルでわかれば、有用な方法と思います。


    回答4  現在、LAMP法では有害有毒プランクトンのうちの十数種を判別することができます。また現在も日本沿岸で漁業被害や貝類の毒化に多大な影響を与える種類、形態分類では判別が難しい種類を優先的にLAMP法の開発を進めています。LAMP法でプランクトン量を定量することは可能ですが、専用の機器(やや高価)が必要であること、正確な分析技術が必要であることから、現場レベルでLAMP法を定量に用いることは少し難しいと考えていますが、赤潮注意報の細胞密度レベルに達しているのかどうか)を判断することは専用の機器が無くても可能です。


    質問5  有害プランクトンを食べるプランクトンがいるのかどうか?もしいたとすれば、どんなプランクトンなのか?このようなプランクトンを利用して、赤潮発生をおさえることは出来ないものでしょうか?


    回答5  動物プランクトン(従属栄養プランクトン)が有害プランクトンを補食することはしばしば観察されています。このような関係を利用した赤潮防除方法の検討は国内外で研究が進められていますが、まだ実用的な技術は開発されていません。


       
  【講演2】 化学燃料が海の生き物に及ぼす影響 への 質問と回答
       
    質問1  ニトロアレーンが遺伝子を傷つける仕組みについて?特にケイ藻類の場合。


    回答1  遺伝子を傷つける事は遺伝子が持っている遺伝情報が正しく伝わらない事を意味しています。腸内細菌の一種であるサルモネラ菌を材料とした研究により、遺伝子に対するニトロアレーンの作用機構が報告されています。ニトロアレーンが生体内の酵素の作用によりニトレニウムイオン等に変化した後、遺伝子の塩基と結合します。その結果、結合した部分の遺伝情報が読みとれなくなってしまい、遺伝子を傷つけることになります。ニトロアレーンがケイ藻の遺伝子を傷つける報告例はありませんが、同様の仕組みで遺伝子に作用すると考えられます。


    質問2  頻繁に飛びかう航空機(戦闘機など全ての機種)の排出する物質の影響は?


    回答2  航空機に使用される燃料は煤(すす)の発生を少なくするため、芳香族炭化水素の含有率が低く抑えられています。今回取り上げたニトロアレーンは芳香族炭化水素が不完全燃焼した際に発生しますので、他の化石燃料よりも生成量が少ないと考えられます。航空機の燃料を使用する際に発生する二酸化炭素等の副産物については、その他の化石燃料と同様に環境に影響を及ぼす可能性があります。


    質問3  魚体などに取り込まれた場合の追跡が必要ではないでしょうか?


    回答3  ラット生体内におけるニトロアレーンの代謝機構が報告されており、酵素の作用によりニトロアレーンのニトロ基が還元されたり、ニトロアレーンの芳香環にヒドロキシ基を追加されたりすると報告されています。また、ニトロアレーンの種類や水中濃度レベルによって異なりますが、ニトロアレーンは水中濃度の4-1900倍の濃度で魚体中に蓄積することが報告されています。しかし、このようなニトロアレーンの生体内における代謝や生物濃縮に関する報告例は少なく、今後さらに解明していく必要があります。


       
  【講演3】  藻場が多いと魚も獲れる への 質問と回答
       
    質問1  藻場の大切さがよく分かりました。アマモの葉の気孔は存在するのでしょうか?


    回答1  気孔は退化しているとのことです。


    質問2  馬島でアマモの実験を行った際、カニが食べているところを見ました。コアマモとアマモの群性帯は異なるように思えますがいかがでしょうか。瀬戸内海で、磯焼けの部分をご教授下さい。
 (1.馬島で〜 2.コアマモと〜 3.瀬戸内海で〜 と分けて回答します)


    回答2  1.アマモがカニの餌となる事例は知られていませんが、貴重な情報かもしれません。可能なら観察を続けてみてください。

2.(そのとおりです)コアマモはアマモに比べて干出に強いため、より浅い場所に群落を形成します。

3.瀬戸内海では、現在のところ、顕著な磯焼けは報告されていません。しかし、今後、温暖化の進行とともに、磯焼けが起こる可能性があるかも知れません。


    質問3  アマモを増やすにも砂が不足しておれば、山砂などを補充すればいいのでは?もちろん粒子などの関係があるのではないかと思われるが、山砂、陸の砂、川砂などの相性があるのかどうか?


    回答3  瀬戸内海でアマモが減少したのは、「砂」ではなく、「浅い砂地海底」が埋め立てにより失われたからです。したがって、まずは、これ以上のアマモの育成に適した場所を喪失しないようにすることが大切です。また、アマモの生育には、砂の由来より、粒径、粒径を決めている波・流れの強さが重要です。


    質問4  藻場回復に向けて企業も研究されているが、人工的に植えつけることで回復するのか?


    回答4  光条件や、海底の状態、波・流れなどの環境条件を徹底的に調べ、「適地の選定」を行えば、回復は可能だと思います。


       
  【講演4】 魚ぉンテッド!放流魚を追え! への 質問と回答 
       
    質問1  ヒラメの腹側にある空洞は、ヒラメにとって何か役割があったりするのでしょうか?(生存には影響がないようですが)こういった空洞は他の魚でもいくつかしられているのでしょうか?


    回答1  空洞はヒラメに限らず、他の魚にも存在します。なお、この空洞は腹側だけではなく、背側にもあり、各々右眼側、左眼側の両方に対になって存在します。これらは魚体の大半を占める体側筋と呼ばれる筋肉と背鰭や臀鰭を動かすための筋肉(起筋、伏筋)が隣接する境界部分になっています。


    質問2  魚にとっては、食品添加物は異物と思えるが、魚自体の状態に悪い影響はないのだろうか?


    回答2  本研究では、食品添加物が魚に及ぼす影響を把握する指標として生残率(生き残る割合)や成長などを調べています。標識を装着した試験魚は標識を装着していない魚と同様に生き残り、成長することを確認していますので、少なくともこの点においては悪影響は及ばないと考えています。


       
ご意見・ご感想 ありがとうございました。